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歌謡舞踊の人気曲と云えば何と言っても[お梶]でしょう。私も何度も上演させて頂きましたが、とても奥の深い難しい演目です。

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[お梶]をより深く楽しんで頂くために、まずこの物語のあらすじをご説明しましょう。

この作品は「文芸春秋」の創刊でも知られる[菊池寛]原作の[藤十郎の恋]を題材にしたものです。元禄時代、稀代の人気役者坂田藤十郎は只ならぬ芸熱心。近松門左衛門書き下ろしの[大経師昔暦]という、おさん茂兵衛の[不倫=不義]をテーマにした演目の役作りに苦悩します。江戸の当時[不義]は大罪だったんですっ。[不義]の経験の無い藤十郎は困り果てます。そこに幼馴染の[お梶]が浮上します。お梶は祇園の料亭[宗清]の女将で、幼馴染の藤十郎に心の奥底で想いを寄せていたのです。そこで藤十郎は、お梶に偽りの恋心を伝えます。実直で貞女のお梶は苦悩します。呼び出した座敷きに訪れたお梶の[後ろめたさ]を含んだ女の表情をつぶさに見取った藤十郎は梅の香りの漂う夜の闇に去ってゆきました。お梶は、[芸の工夫]の為の偽りの[口説き]だと知ったと気づきます。お梶は、一瞬でも亭主を裏切り不義をしようとした自分の心を責めて自害してしまいます…。どうです、この純情。この貞節。こんな凄い話だったんですよ、お梶は。

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皆さん、ちゃんと理解して踊って下さいませよ。芸者みたいな扮装のお梶やら、[天紅]の手紙をなびかせて踊りまくっているお梶をよく拝見しますが…。【絶句】確かに[島津亜矢]さんのこの曲は、情熱的で色っぽく歌っていますから、くねくねと踊りたいのは理解できますが、[天紅]の手紙は遊女がお客の気を引くために、手紙の上辺に[口紅をつけて男の気を引く]ための行為が小道具として定着したものです。料亭[宗清]の女将や、娘の[お染]や[八百屋お七]が遊女でもあるまいし[天紅]の手紙を持つなんて…。【絶対ありえません!】芸者が持つのも違和感ありますよ、胡蝶は。

私のお梶の衣裳はその時の気分で変えています。それこそ地味な小紋と云うよりは、色気のある[裾模様]と小紋を組み合わせたようなものが好きです。帯結びは手結びの[一文字]です。これもよく[角出し]に締めているお梶を見かけますが、いけません。時代考証が違い過ぎ。近松門左衛門の時代の[女将][人妻]系の女性はすっきりとした[一文字]が良いですね。清潔感の中に凛とした色気があって。私のお梶は座敷に入ってくる風情を[前掛け]で表現しています。[女将]と[働く女]の感じが何とも言えないでしょっ…!

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この写真は、時代縮緬で作った[前掛け]と幕切れに使用する[剃刀]です。これは後ろの御客様にも良く解るように、照明で[ギラリ]と光るようにプラチナで特別に誂えました。見た目より重いんですよ。昔の女性はこの剃刀を赤い[紅絹の布]に包んで鏡台に忍ばせていました。大切なお化粧道具であり、[守り刀]的なものでもあったと思われます。色っぽい。

歌詞のセリフに『二つに重ねて、切り刻まれて、あの世とやらへ堕ちましょう、嬉しい、嬉しい…、』とあります。どうです、この凄まじい情念。二つに重ねて、切り刻まれてとは[不義密通]は当時[姦通罪(かんつうざい)]といって、見せしめの為、河原の刑場で二人重ねられて…、という意味。この覚悟、脱帽。合掌。

髪型は関西風の上げ鬢の[先笄]というもの。独特でしょ。

胡蝶は自分の好みで[三つ輪]という髪型に結っている事もあります。

一途な女心、[女心をもてあそび、奈落に落として消えた人、憎いの、憎いの、憎い恋しい、女泣かせの藤十郎]是非[お梶]ご堪能下さいまし。 

​2010年12月4日

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