
皆様ご存じの[鷺娘]は、歌舞伎舞踊の代表的な人気演目です。
この作品は二代目瀬川菊之丞という役者が、宝暦12年と云いますから、1762年に江戸の市村座で六変化舞踊『柳雛諸鳥囀』(やなぎにひなしょちょうのさえずり)として上演されたのが始めとされています。
雪の降りしきる水辺に、白無垢姿の娘が佇んでいます。白鷺の精です。儚い女心を漂わせて登場する姿が印象的ですね。やがて華やかな姿に変化してゆき、様々な恋心を表現します。やがて娘は鷺の姿となり、叶わぬ恋の闇から[地獄の責め苦]を受け、力尽きるのです。

変化に富んだドラマチックな作品ですね。私も子供の頃から多くの名優の[鷺娘]を拝見して憧れて参りました。小学校の頃、立て直す前の新橋演舞場で観た鷺娘。底冷えのする季節と舞台が合い舞ってものすごく感激したのが忘れられません。小学校の卒業の謝恩会で躍らせて頂いて以来、8回程上演させて頂きました。
この作品の難しい処は、[鷺]そのものを踊る…と云う事でないのです。白鷺の精が恋に悩む娘の姿を借りて踊る…といった演じ方でないと、[鳥娘]になってしまってはいけないのです。

[これは〔アミの鬘〕でのものです。本来は台金の古典の鬘で勤めます]
白無垢で登場する印象的な姿ですが、引き抜きの衣裳を下に着 込んでいるため、モコモコとかさ張ってしまって、太めの花嫁状態。いつも鷺娘の白無垢の引き抜きは本当に緊張します。着物だけでなく帯まで変えるために、とても段取りが多く、高度な技術が一瞬にして求められるからです。またこの鷺娘の白無垢は、胡蝶は特に着物の裏の部分まで白無垢で包みこんでいる[袋被せ]という古風な形の厄介な物。

引き抜いて鮮やかな娘姿になると、パッと衣裳も軽くなり気持ちも晴れやかに踊れます。ここは[クドキ]と云われ、娘の恋心や恥じらいを表現します。

ここで、後半戦のために着替えに入ります。地方の生演奏の時は、[合い方]といってこの着替えの間を三味線とお囃子で繋ぐので、華やかでいいのですが、音源[録音音源]で上演するときは、舞台が無人になって、いかにも着替えの間がしらけるのが嫌で、胡蝶の演出は[雪の精]を出して踊りで繋ぎます。

要、扇の[雪の精]とても評判が良かったですよ。
[あくまでも胡蝶の演出で、邪道とお叱りを受けてしまうかもしれませ~ん!]
後半は、最後の鷺の羽を刺繍した 衣裳まで、襦袢を合わせると5枚もの衣裳を着込んでいるために、もうブクブクの椋鳥、ラグビー選手状態。北京ダック状態です。コロコロとしてとても踊り辛いんです。どんなにシェイプアップしようとも、この衣裳でスッキリ見えるのは難しいんですっ!

又もや引き抜き[傘づくし]を軽快に踊ります。この時、登場時に使用していた[絹張り]の傘から、[紙張り]の傘に取り換えています。傘の影で引き抜くために透けて見えないようにする工夫です。

[傘づくし]の後半から体力の貯蓄が怪しくなってきます。
上半身を緋縮緬の襦袢に肌脱ぎした姿は、胡蝶は鷺娘のうちでも、艶麗で最も好きなシーンです。

ここから一気に地獄の責め苦に展開してゆきます。
[ぶっ返り]という引き抜きの手法で、上半身鷺の羽の衣裳になり、切ない羽ばたきを表現します。
