我々日本人に限らず、海外の方も含めて日本の女性像をイメージするときに必ず上位に位置するのが[芸者]です。
特に新舞踊を習い始めるきっかけが『粋な芸者姿に憧れて…』と云う方が少なくありません。黒の紋付の裾引きの衣裳にちらりと覗く[緋縮緬]の襦袢、柳に締めた博多帯の印象が圧倒的ですね。
そもそもこの[芸者]という職業の女性、江戸後期から明治、大正、昭和にかけて江戸花街をはじめ全国の盛り場や温泉場に存在しました。特に江戸の芸者は[粋]と[気風の良さ]を売り物として、艶やかな舞いや三味線をはじめとする歌舞音曲の芸事を披露して酒席を接待していました。俗に云う[遊女]とは異なり[芸]と[心意気]を売り物にしていたのが[芸者]とされています。明治になると[仕込み]制度が通例化して[お酌]や[半玉]と呼ばれる芸者見習いの振袖娘も座敷に初々しさを添えました。
芸者の座敷料金を[玉代]と云った事から、半人前の仕込み娘を[半玉(はんぎょく)]と呼びました。又関西では[芸者]は[芸妓(げいこ)]、[半玉]は[舞妓(まいこ)]と呼ばれています。
俗に舞踊の世界では[黒芸者]と呼んでいるのが、黒の紋付を着ている役柄のものです。花柳界では[出の支度]と云って、正月や特別な宴席、ピップを迎えての座敷等で着用する芸者の[正装]なのです。特に大人数の芸者が黒の正装で勢揃いした処は圧巻ですね。歌舞伎ではあまりない事ですが、新派の口上や私ども宗山流ではお馴染の景色です。又、お祭りに登場する芸者も黒の正装で御祭禮に花を添えます。
女学生といえば多くの方が[セーラー服]をイメージするように、芸者と云えば[黒のお引きずり姿]になったのでしょう。
でも芸者だから[黒紋付]ばかりではない事も知っておいて頂きたい事です。演目によっては縞や小紋といったあっさりとした引き着で演じる[普段着の芸者]を演出したものや、[色紋付]の[色芸者]という衣裳の演目も多々あります。かえって[黒紋付の]芸者役は限られた少数の演目で、縞や色物の裾模様を着た演目の方が多いのが実情です。帯結びは江戸の芸者特有の[柳]と云う極シンプルな形を基本として、[角出し]も多く見られます。絶対やってほしくない事は(※胡蝶論)黒の紋付の衣裳の時に[柳]以外の[角出し]を結ぶ事は[野暮]と云う事。ただし関西の芸妓の結ぶお太鼓の変形[重箱結び]は別物です。又、胡蝶は新舞踊演目に限り、時に[お太鼓]を締める事もあります。
最近新舞踊の舞台で、婚礼用の普通の黒留袖を、[おはしょり]に着て赤いベンベルグのお腰をこれ見よがしに見せて、柳を結んでいる方々を本当によく見かけますが、ありえません。単にお太鼓がほどけて落っこちているようにしか見えず[粋]どころか、だらしがなく[不粋]です。婚礼に出席した親戚のおばちゃまが乱心したようですから…。
芸者の着付け、着こなしや髪型については、芸者 其の二以降も続きまーす。
芸者に関してはうるさいですよ、胡蝶は…。
2010年12月1日